最近のタンポ事情について話してきたが、ついでにタンポを納めるキーカップの改良についてもちょっと言及してみたい。
一般的なキーカップの製造法は、材料である金属の平板を金型で圧力をかけ、打ち出して形成する。つまり専門的に言えば鍛造という方法で作る。この方法だと元々は平たい板なので、どの部分も均等な厚さであり、また金属繊維が分断されないため、割れ強度に対してきわめて強く、コストもかからない。この方法で作られたキーカップはタンポをはずしてカップの裏側を見てみると、表の模様が裏からも読みとれる。タンポを取り付けるためのねじを受ける部分(スパッドと呼ばれている)は後からハンダまたはロウ付けで取り付けられる。
この鍛造法に対して、切削法という方法がある。数年前にバーカートがフルートを開発したときにはじめて採用した方法だ。
こちらは、金属のブロックから旋盤で削りだして製造する。この方法だと金属は大量に必要だが、どんな形状にでも作れる。
タンポはもちろん平面に納めたいわけだから、カップの裏側も平面にすることでより狂いを減少させることができる。
鍛造ではどうしてもデコボコになるカップの裏側を全く平らに作ることができるし、ねじ受けさえも同時に削り出すことが可能なので、スパッドの溶接がはずれるといったトラブルが根本的に発生しない。
金属工学を教えている友人の話によると、金属繊維が分断されるので強度的には鍛造にかなわないらしいが、ことフルートのキーカップとしての用途に使用する限り、現実問題としてその差が露呈することはあり得ない。無論、恩恵の方が大きい。コスト的には金属の無駄がでるが。
最近はミヤザワフルートもこの方法に切り替えたようだ。雑誌のCMでは新案特許申請中とあるが、バーカートと何が違うのか不思議だ。製造過程で何か違うのかもしれないが、出来上がったものは同じなのだけど・・・
一般の皆さんには、完成したフルートを見る限り、カップがどちらの工法で製造され、裏がどうなっているかを表から見分けるのは難しいと思う。
過日、ミヤザワフルートの宮澤氏が来社してカップのサンプルを見せてくれたとき、私がすぐに切削で作っていることを見破ったのでビックリしていた。なぜわかったかというと、特にリングキーのカップでは、鍛造で作った場合、カップの穴とその回りの飾り溝の間が微妙にラウンドしている。それに対し切削で作ったものは、同じ部分に完全な平面ができている。(文章で表現するのは難しい)
バーカートのフルートをはじめてみたときに、この部分のデザインが印象的だったので、この僅かな違いでピンときたわけだ。
見えないところでフルートは格実に進歩している。タンポ一つとってもこれほど情熱をかけて改良を重ねているのである。
バーカートに続いてミヤザワは普及モデルから全てこのキーカップに変更するらしい。ミヤザワの、先進的な技術を普及モデルから分け隔てなくそそぎ込む姿勢は大変評価できると思う。
特許や実用新案といった障壁があるのですぐに全てのメーカーに広まるかどうかは一概に言えないが、何らかの方法でカップの裏での各メーカーの技術攻防は広がっていくことだろう。
1999.11.17