3オクターブのEの音はしばしば問題にされる音です。今回は私が常用している5つの運指をご紹介します。
3オクターブのEbからGisまでは、気柱の4分の1に当たる場所のトーンホールを一つだけ開けるという原則で、基音の2オクターブ上の音を出しています。これはギターの12フレット目で一オクターブ高い音が出て、さらにその半分の弦長になると、もうオクターブ高くなるのと同じく、トーンホールを開けることで、気柱に節を作り、弦を押さえたときと同じ効果を得ています。
この原理を確認してください。3オクターブのEs,F,Gのときは左手で開けたホールが一つだけ開いていますね、しかし、Eメカニズムのついていない楽器であれば、E,Fis,Gisの場合は隣のホールまで開いてしまっています。このことがこれら3つの音を出にくくしている原因です。EメカニズムはせめてEだけでも正確な組合せになるように、右手から連絡させて片方のキーカップを閉じるようにしたメカニズムなのです。しかし同じ原因で出にくいFisは解決できていません。
ちなみに、3分の1のところに当たるトーンホールを開くと12度上の音が出ます。3オクターブのDはGの音を基音にし、その原理で出していることがわかると思います。
では、この原理でEsを出すためには、半音上のAsの指に左のトリルキーを押すと出ますから、もう半音上のEはAの指に右のトリルキーを押すと出ます。
最初にご紹介するこのEの運指は、フォルテでドラマチックな音を求めるとき有効かもしれません。しかし、私はいかにも「短いフルート」のような音色なのでメロディーではまず使うことはありません。でも、ドビュッシーのシリンクスの27小節目の装飾音Fesは絶対この指が似合います。自然なアクセントもつきます。
2つ目は通常の運指から右の小指をはなします。こうすれば音程は下がり気味ですが、安定した音色で吹くことができます。特に3オクターブのAからスラーでおりるときには絶大です。3オクターブのAは右の小指を押さえないと出ませんから、確実にスラーできます。ドヴォルザークの第8交響曲の1楽章で「ララミララーラ」のソロを吹くとき、吹奏楽ではリードの「音楽祭のプレリュード」で「ラミララミララミララミラ・・・」のフレーズを吹くときなどこの運指でないと巧くできません。
3つ目は2つ目の方法に右のトリルキーを開ける運指です。この運指にすると音色は明るく音程もバッチリになります。ピアノで吹くとき、たとえばプーランクのソナタの出だしなどで使うと調子の悪いときのお守りになります。フォルテで吹くとあいません。「短足フルートの音色」になってしまいます。
4つ目は一番良い音が出ます。通常の運指では右小指はEsキーを押さえていますが、中音域の時と同じくCisキーも同時に押さえる運指です。運指としてはもっとも押さえにくく、早いパッセージでは不可能ですが、落ち着いた豊かで正確な音色が出せます。これならEメカニズムのついた楽器にも負けませんよ。
さて最後の5つ目はごくごくまれにしか使いませんが、最低音のCの運指から右の薬指を開け、その薬指で右のトリルキーを押さえる運指です。少々オクターブ下が混じった音になりますが、超ピアニシッシモでも安心して吹ける運指です。ベートーベンの7番交響曲の第1楽章、序奏部からフルートソロのテーマに移る緊張のオーボエとのユニゾン「ミミー」もこの運指なら安心です。このフレーズではオーボエがオクターブ下のEを吹いているので、少々オクターブ下の音が混じっても全然問題になりません。
シンプルなキーメカニズムが好みの私はEメカニズムなしの楽器が好きです。同じ原理で出にくいFis,Gisの解決メカニズムは一般的なオプションではありません。
ベームオリジナルのオープンG#のフルートならこの問題は起きませんが、今更左小指の動きを逆にするなんて・・・練習する気になりません。
でも、そのためちょっと怖いフレーズではこれらの運指を使っています。もちろん、使っているといっても、通常の運指を使うことが95%以上だということを最後に付け足しておきましょう。
次回は最高音域で例外的に低くなりやすいBbのレパートリーをご紹介します。
1999.09.03