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世界の名器

 

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時々、「今世界で一番いいフルートはどこのメーカーですか?」と聞かれることがある。
これに対する返答には困ってしまう。
個人的にはブランネンとムラマツ、古いヘインズが好きだが、最近入荷したバーカート=フェランも、ちょっと筋肉質かもしれないが、本当によく考えられた良い楽器だと思う。無論、パウエルや日本の他のメーカーの楽器も良いと思う。
しかし、絶対的な良い楽器というのは存在しないと思う。これはラモーのコンセールとハチャトリアンの協奏曲をどちらもぴったりな表現ができる音色を持った楽器が存在し得ないだろうと思うのと同じだ。また用途によっても違う。

勉強している方に私がお薦めしたいのはムラマツのADモデルである。音大受験生のほとんどがお世話になるこの楽器はかつてのスタンダードモデルと同じく、フルートの吹き方を教えてくれる名器だと思う。『ここに息を吹き込めば響くよ』とか『中音域はこれくらいの息圧が一番効率がいいよ』と楽器が導いてくれる。逆に言えば、ストンと響くポイントに落ち込んでしまい、個性的な音色の変化は出てこないかもしれないが・・・
カタログ上のデータでは、価格以外はワンランク上のDNモデルと同じ仕様をしているが、楽器の性格は全く違う。「ADモデルでは音色が作れない」と思うようになったらそのときはDNやSR、Gold、または他のメーカーの音を作れる楽器にすればよいだろう。それまではとても良い先生になれる楽器だと自信を持って薦められる。

ところで、同じく困った質問に「何年ぐらい寿命がありますか?」という質問がある。
総銀製以上であれば、物理的には100年経っても問題ないように修復できる。その意味では『あなたが心配している間は寿命はこない』わけだが、楽器というのはその音色が持ち主に気に入られなくなった瞬間に寿命が来たことになってしまう。
それは一生こないかもしれないが、明日やってくるかもしれない。
明日、寿命が来た方がいらっしゃったら、ご連絡ください。しばらくはあなたのお気に召す楽器をご用意いたしましょう。

1999.01.21

(注) 現在はAD、DNモデルは廃番商品となっており、後継はよりグレードアップしたDSモデルとなっています。