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フルートメーカー大儲けの時代

 

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 国産総銀製フルートほど価格の安定している商品も珍しいだろう。四半世紀以上昔も現代も、総銀製フルートは50万円程度だ。なぜこんなことが可能なのか、その原因と影響について考えてみた。

総銀フルートをおそった逆価格破壊

 長年フルートをやっている人は覚えているだろうが、今から30年近く前、フルート価格に大激震が起こった時期があった。中東の戦争を発端に起こった銀の高騰により、驚愕のフルート値上げが生じた。銀の不足はフルートに限らず影響を与え、なんと町中から一時、写真フイルムが消えた。銀塩写真という名前からもわかるようにハロゲン化銀を感光剤に使うからだ。

 さて、総銀製フルート、いったいどのくらい値上がりしたかというと、ムラマツのスタンダードモデルが23万円から55万円になった!一気に倍以上である。当時の各メーカーは(今でもそうだが)業界の帝王ムラマツの価格設定に比較して自社のフルート価格を決めていたので、どのメーカーも倍以上の値上げに追従した。注文していた人たちは泣く泣く倍以上の出費をするかキャンセルするしか手立てがなかった。

 その後、程なくして元の価格近く落ち着いたのだが、だからといって各メーカー、値下げをすることはなかった。もちろん値下げをすると、高い時期に買わされた方々へ補償を求められることもあったからだろう。 
そんなわけで、総銀製フルートはメーカーにとって笑いが止まらないほど儲かる商品となった。
30年近く値上げの必要がないほど儲かっていたのだ。

儲けた金はどこへ消えたか

 この法外な儲けがフルートメーカーに与えた影響は小さくなかった。メーカーは大儲けをしているのに、比例して懐が豊かにならない職人の中に、「自分のブランドを作ったほうが儲かるのでは・・・」と考える者が出てくるのは自然なこと。
どことは言わないが、創業15-25年のメーカーはそれに当たる。
それまで普及品ばかりを作っていたパールも銀製ハンドメイドモデルに力を入れ出す。

 一方で老舗の専門メーカーは、有り余る資金を設備投資や研究開発費に充て、日本のフルート製造技術を世界のトップまで引き上げた。この儲けがなかったら、今日の世界のフルート界で、日本の楽器がこれほど君臨するようにはなっていなかっただろう。こんな時ヤマハのような総合メーカーはせっかく出た利益を他の赤字部門の補填に使ってしまうのでマズイ。

 このようにメーカーの多様化と製造技術の飛躍的向上を果たしたが、その陰には愛好家たちの知られざる投資があったのは紛れもない事実だ。

今とこれから

 このようにバブル景気も、長引く不況も関係なくすごしてきたフルートメーカーだが、さすがに30年近くなると総銀製で大儲けができる時代は完全に過去になった。しかし、フルートメーカーはもうひとつの幸運をつかんだ。ゴールドフルートの流行である。
私は金やプラチナといった貴金属としての稀少価値の高さがなぜ楽器の性能と比例するか疑問だ。というよりそんな理由はあり得ないと思っている。実はゴールド以上の音楽的性能を持つ合金があるのではないだろうか。

 それはともかくとして、試しに洋銀の材料費はゼロと仮定すると、製品価格はすべて工作費及び流通経費となる。多くの専門メーカーでは同じラインで24金も洋銀も作っているので、極端に言うと洋銀フルート価格がオーダー・スーツで言う“お仕立て代”にあたる。では、“生地代”に当たる金属代は・・・?
フルートの重さは500〜600グラム程度だから、金・銀・プラチナのグラム単価の差に500倍してみるとおおよその差が見えてくる。この差が製品価格差と比べてどうだろう。
今の時代、ゴールドユーザーがフルート界の発展に貢献していると言えるのではなかろうか。

 最近、銀製フルート、特に手間のかかるソルダードフルートや、銀純度の高い(といってもそれほど原料価格は変わらない)モデルからじわじわと高値傾向に推移してきている。ハンドメイド総銀製は今が買いの時期かもしれない。

2006/10/16